929



 付き合いだして初めて迎える誕生日。
 柄にもなく、意識してる自分がいる。

 携帯を開けば23:56の文字。
 後数分で、29日になる。

 今年の誕生日は普通に平日で、朝練もあるから、お互いの家に泊まるなんてことはできなかった。
 部活後、一緒に帰り、別れ際にアイツは、「明日は、一番に俺がおめでとうって言いますね」 と、微笑いながら言って、名残惜しげに帰っていったっけ。
 もちろん俺だって別れがたくはあったけど、あまり顔には出さなかった。
 余計、離れられなくなるから

 俺が夕方の出来事を思い出していると、携帯が鳴りだす。
 着信はアイツから、時間はまだ57分。
 メールじゃなくて電話で言うつもりか?
 フライングだけどな、と少し笑いながら電話に出る。

「こんばんは、すみませんこんな遅くに」
「いいぜ別に。まだ起きてたしよ」
「よかった。それであの、今すぐ外に出てくれませんか?」
「は?今から?」
「えぇ、できるだけ急いで下さい」
「わ、わかった」

 電話越しに聞こえる、少し焦った声につられ、俺も幾分慌てながら電話を切ってポケットに突っ込み、玄関を出た。
 暗闇に浮かぶ銀髪の長身へ早足に近付くと、向こうも俺に気付き近付いてくる。

「宍戸さん!」

 名前を呼ばれ、軽く抱き締められ耳元で「お誕生日、おめでとうございます」と囁かれた瞬間に、ポケットからメールの着信音が続け様に鳴った。

ケータイ、いいんですか?」
「メールだから構わねぇよ。今、目の前にいる相手のが、優先だろ?
「ふふ、ありがとうございます」

 そう言って、笑顔を浮かべる長太郎は、抱き締めていた体を少し離し、俺の目を見て話しだす。

「改めて、お誕生日おめでとうございます。どうしても、ちゃんと言いたくて、会いにきちゃいました」
「お、おうサンキュ。ぉ、れも、会いたかった

 暗くて表情が分かり辛いのをいいことに、いつもは言わないような台詞を言ってみると、少し大袈裟だろうと思うくらい、 嬉しそうに笑い、長太郎は俺を抱き締めた。

「お、おい!
「だって、宍戸さんが可愛いこと言うから!貴方の誕生日なのに、俺ばかり喜ばされちゃって、すみません」

 そう言った長太郎は、 啄ばむようなキスを数回すると、また俺を抱き締める。

「この日に貴方が生まれてきてくれて本当に良かった
俺、宍戸さんと出会えない人生なんて想像したくもない。宍戸さん、生まれてきてくれて、ありがとう。宍戸さんのご両親にも、宍戸さんを生んでくれたこと、感謝しないと」
「長太郎
「今日は、ウチに泊まりに来ませんか?明日は確か練習無かったはずだし二人切りで、大切な日をお祝いしたいんです。ダメですか?」
「ダメじゃ、ない

 そんなこと言われて、俺が断れると思ってるのか?
 家族のことを少し考えたが、別にパーティーをするわけでもなし、構わないだろう。
 部活の連中が祝ってくれるから泊まる、とでも言っておけば、なんとかなるだろうし
 俺が頭でそんな算段をしていると、

「プレゼント、はウチに置いてありますから、今日帰ったら改めてお祝いして、その時に渡しますね。ちゃんと用意しましたから、楽しみにしててください」
「オウ、期待してんぜ?」

 そんな話をして、二人で笑いあう。
 何気ないような会話、でも、今だけは、今日だけは特別な気がして
 胸の辺りが暖かいカンジがする。

「じゃあ、また後で。おやすみなさい」
「あぁ、気を付けて帰れよ!ありがとな」

 そう言って長太郎を見送り、家に入る。
 部屋に戻って確認した新着メール、差出人は部活の奴等。
 長太郎の言葉と同時に、一番最初に届いたメールの着信時刻は29日、00:00
 俺の特別な日は、始まりも終わりもアイツと共に迎えることになる。
 そう思うと、自然に笑みが零れる。
 自分が生まれたことを、大切なヤツに祝って、喜んでもらえる幸せ。
 きっと今の俺は、普段の俺を知ってる 奴等からすれば奇妙に思われるくらい、弛んだ顔なんだろう。

 部屋で一人、幸せを噛み締める。
 この幸せを、この嬉しさを、長太郎の誕生日には、アイツに同じように感じさせてやりたいと、いや、きっとそう実感させてやるんだと決めた929日。






 宍戸さん、おめでとう!
 チョタにたっぷり祝ってもらってねv
 なんて言うまでも無いか(笑)
 メールも嬉しいけど、やっぱりこういうお祝いは、
直接言われたほうが嬉しいですよね。
 そういえば、久々に裏以外の小説書けたな

  2006929


モドル