笑顔



 最近…いや、もっと前からかもしれないが、あいつの様子がおかしい。
 何か俺に隠してる。
 それも、多分俺に関するコト。

「どうした?長太郎、さっきからぼーっとして」
「なんでもないです。ちょっと考え事してて」
「そっか?ならいいんだけどよ。悩みあんなら俺には言えよ?」
「はい、ありがとうございます」


 柔らかい、でも寂しげな笑顔。
 胸が、イタイ。
 …絶対俺に関する事だ。
 こいつは優しいから、いつも自分より俺のことを最優先する。
 自分は我慢しても、そのことを気付かれないように隠して。
 でも、やっぱり気づいてしまう。

 自覚は無いだろうけど、お前はウソが下手だから。
 それは、俺を大事にしてるってことが解るし凄く嬉しいけど、同じくらい悲しい。
 俺だって、お前の恋人なんだから、大事にしたい気持は同じだ。全ては解ってやれないかもしれないけど、話しを聞くぐらいはさせて欲しい。


 …あれから数日。やっぱりこいつは、俺に話さないつもりのようだ。

「なぁ、長太郎」
「なんですか?」

 お前が隠すのなら。

「俺に隠してること在るだろ」
「…やだなぁ、そんなのありませんよ」


 笑うなよ、そんな悲しい笑顔は見たくない。
 いつもの、相手まで明るくさせる笑顔が見たいんだ。

「…俺が、気付いて無いと思ってるのか!?あんな寂しげな笑い方しやがって!なんで、なんでお前はいつも…」
「宍戸さん!?」


 感情が高ぶりすぎて、涙が頬を伝った。
 だが、慌てる長太郎の声で逆に冷静さを取り戻していく。

「お前は、いつもそうだ」
「え…?」
「俺のことを何よりも優先して、自分は我慢して。自分がどんなに辛くても。心配させまいとそれすらも隠して」
「…」
「嬉しくないとは言わない。確かにお前に愛されてるって事なんだから。でもな、俺だって同じなんだよ!」

 涙が、止まらない。

「何でなにも言ってくれないんだよ!」
「……怖いんです…こんなこと話したら、きっとあなたは俺を嫌いになる!それが一番、嫌なんです!」


 俯いたままそう言った長太郎の手は微かに震えていて…
 あぁ、なんて、なんてコイツは俺のことを一途に好きでいてくれるんだろう、と。
 そう思ったら、そんなことあるわけ無いと、早く安心させたくて。

「バーカ」
「バカって、ヒド…」

「俺はなぁ、お前が思ってる何倍も、お前のことが好きなんだよ!そんな簡単に嫌いになれる程、半端な思いじゃねーよ。だから…話せよ。応えてやれないことでも、せめて話は最後まで聴くから」

 そう言って、長太郎が全て話してくれるのを待った。


「……あなたを守って、大事に、したいんです。心から、そう思う。でも…」
[…」
「…傷付けて、泣かせて、壊してしまいたい。誰にも見せないように、あなたが誰も見ないように、閉じ込めてしまいたい。一生俺だけを見るように!そう思うのも、事実なんです。でも、こんなことを思う自分が嫌で、知られて嫌われることが、怖くて…」


 一度治まったのに、長太郎は、また微かに震えてる。

「あぁ、こんなこと、言うつもりなんて無かったのに…俺のこと、嫌になったでしょ?それとも、怖い?いつも、あなたに優しいこと言っておいて、心の中ではこんなこと考えてたんですよ!」

 半ば自棄になって叫ぶ長太郎。
 切なくて…
 でも、嬉しくて、お前の恐れてることは、有り得ないと、早く伝えたくて。

「好きだよ。言ったろ?半端な気持じゃないんだからな。それに、そんだけ俺をのことを求めてくれてるんだろ?嬉しいよ」
「ホント…に?」
「それに、俺だって同じような嫉妬や独占欲はあるんだよ!お前は、元からの性格だけど、皆に優しいし、モテルし。そんなの見てると、俺だけに、笑って、話して、優しくして欲しい。誰にもお前を見せたくないと思う」
「…」
「だから、一人であんま考え込むなよ。ちゃんと言えよ。嫌いんなったりしないから。好きだから」
「…」
「って、なんか言えよ!?俺だけこんなこと言って、恥ずかしいだろ!

 そう言って長太郎を見ると…
 ポカンとした表情で固まっている。

「長太郎…?」
「ハッ、す、すみません!なんか、宍戸さんがそんなこと言ってくれるなんて、思ってもなくて。…凄い、嬉しいです」


 少し潤んだ目で、俺に向けられた心からの笑顔と言葉に、もう胸は痛まなかった。





 終わり







 これは、前作の『慾』という名の暗い愛の続きのつもりで書いたもの。
 やっぱりあのままじゃ長太郎が可哀想だろ、と。
 すいません、長太郎大好きなもんで;





モドル