‐カオ‐



  なんか…
  何となく、ではあるけれど、宍戸さんの様子が変だ。

 今日は指導日で、引退した先輩方が、俺等の練習をみに…
 というか扱きにくる日なんだけど、その時から、何か言い掛けては「なんでもねー」と止めてしまう。
 聞き返しても答えてはくれないし…


 その後ウチに来てからもずっと、どこかソワソワしたような、落ち着かない様子。
 いつもの彼らしくない。
 気になって仕方ない俺は、これで何度目だろうか…
 またもや問い返す。

「ねぇ、宍戸さん、本当にどうしたんですか?今日は何かおかしいで…」
「長太郎っ!」

―ドサッ…チュ、くちゅ―


 な、何が…?
 今何が起きた??
 突然の事態についていけないアタマを必死にフル回転させ、状況を確認する。

 えぇと…
 宍戸さんの様子がおかしくて、声を掛けたら、座っていたベッドに押し倒され、て?
 宍戸さんから、ディープキスを、サレテル…
 ?!

「宍戸さんっ?!」

 やっと状況を理解し、同時に驚きで彼を引き剥がす。

「え、えっ?急にどうしたんすか?何かあったんですか??」
「嫌、だったのか…?」
「い、嫌だなんてとんでもない!ただ驚いたというか…」
「じゃあいいだろ!」

 そう言った宍戸さんは、俺に跨って、また深いキスをしながら俺のシャツの釦を外していく。


「ふ…はぁ、ホントに、どうしたんですか?宍戸さん」
「んだよ、たまには俺からシたっていーだろ?

 照れながら、そんなこと言わないでくださいよ…
 今すぐ押し倒して鳴かせたくなるじゃないですか。
 でも、こんな嬉しい展開、滅多にあるものじゃないし、ここはぐっと堪えて宍戸さんがどうするのか任せるのもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、いつのまにか俺の上半身は脱がされていて、平らな胸の頂きに、舌を這わせる彼の姿が目に入った。
 ミルクを吸う仔猫みたいだ、なんて呑気に思っていたら、甘噛みされて小さく声が漏れてしまった。
 それに気を良くしたのか宍戸さんは、尚も胸に吸い付きながら、右手で俺のベルトを外し、ズボンと下着を寛げると、反応し始めた俺の自身を、直にそっと握り込む。

 揉むように、擦るように、ぎこちない手つきで手淫を頑張る宍戸さんが、可愛くて。
 でも、それだけではなかった。

「なっ?!そんなことしなくていーっすよ!ねぇ、宍戸さん?!うっ」
「うるせぇ!いーから黙ってされてろ!」

 本当に、今日の彼はどうしたんだろう?
 いつもなら、頼んでも恥ずかしがって大抵はしてくれないはずの口淫を、彼の方からしてくれるなんて。


 小さな口に目一杯頬張り、苦しいのだろう、目尻に涙を浮かべ、それでも一生懸命に俺を感じさせようと口を動かす。
 時々、歯は当るし、舐め方は足りないし、決して上手いとは言い難い彼の愛撫。
 でも、確実に反応する俺自身と、こんなにも愛しい気持ちになるのは、愛撫をくれるのが貴方だから。

「はぁ、うっ…もう、いいですよ、宍戸さん…」
「でもまだ…」
「だから、貴方の中でイきたい…ね?」
「わかった

 そう言って脱ぎ出した彼を俺も上体を起こして手伝う。
 全裸になるとまた俺の身体を倒させ、


「今日は、俺がスルから、お前は寝てろ」
「え、でも、まだ後ろ慣らしてないでしょ?解さないと痛いし挿らないんですよ?」
「わかってるよ!今やるからゼリー貸せ!

 ベッド近くの棚から、潤滑ゼリーを出して渡すと、宍戸さんは俺に跨がったまま、

「うっ、くぅん…アッ」

 左手を俺の腹について自分を支え、右手はゼリーを乗せた指で蕾を解している。
 上気した肌、伝う汗、濡れた唇から漏れる、可愛い鳴き声に、熱い吐息…
 その姿があまりにも綺麗で、淫らで…
 でも、それは…

 声も無くただ見ていた俺に貴方は気付かず、鳴きながら指を使う。
 大きくなる喘ぎに比例し、解れたのであろう蕾からはクチュクチュと水音がする。
 そして、彼の限界も近いらしく、自分の名を呼ばれてやっと俺は我に返った。

「長、たろっ…もぅ、ハァッ」
「うん、宍戸さん…場所代わる?」

 身体を支える脚は震え、本来照れ屋である彼がするのは、これが限界だろうと思った俺は、そう声を掛けたのだけれど。

「い、このま、ま…やるからっ」

 見事予想を裏切った彼は、後ろを弄っていた手を俺自身に添え蕾に宛がうと、ゆっくりと腰を下ろしていく。


「くっ」
「あっ、ハァッ、んぅ…」

 一番太い所を過ぎ、半分まで俺を飲み込むと、動きを止める彼。
 快感から来るのか、酷く震える脚に、もうあまり力は残っていなさそうだと、そう思った瞬間…

―ガクッ、ズチュッ―

「?!あぁっ、ンァッ!」
「くぅっ」

 膝が崩れて一気に貫かれ、極めそうになるのを必死に堪える宍戸さんに、俺もまた、同じように快感の波をやり過ごす。

「大丈夫ですか?っ、苦し、くない?」
「へぃ、きだっ、もっ…イきたっ」
「うん、俺も。宍戸さん、そのまま動ける?」
「んっ」


  ゆっくりと腰を使い、自分が感じる処に当たると、少しづつ動きを速める宍戸さん。
 それに合わせ、俺も下から突き上げるように腰を使う。

「あっ、うぁっ…ア、ハァッ」
「はっ、はぁっ」

 我を忘れたかのように、俺の上で踊り、淫らな声をあげ続ける。
 潤んだ瞳はどこか虚ろで、俺を見ているのに擦り抜けていく感じがする…
 気持ち良いのに、積極的な彼が、確かに嬉しいのに、俺の中で膨らみ続けている寂しさ。
 堪えきれなくて、俺を見て欲しくて、上体を起こして、喘ぎ続けて飲みきれない唾液を零す唇に、深く、深く接吻た。


「ン、ふぁっ、んぅ…」
「宍戸さん、大好きです、本当に…愛してる」
「あっ…ちょ、たろっ、俺もぉっ、あい…てるっ、はぁっん、もっ、ダメェッ」
「宍戸さんっ、一緒にっ、くっ!」
「うぁっ、あぁぁぁっ!」

 彼の腰を掴み、思い切り最奥を突き上げる。
 同時に極め、俺は宍戸さんを抱き締めたまま後ろに倒れた。

 そのままの態勢で暫く呼吸を整え、疲れて眠ってしまう前に俺は話し掛けた。

「ね、宍戸さん、本当に今日はどうしたんですか?」
「だから何もねーって。なんだよ…ホントは嫌だったのか?」

「違っ、そうじゃなくて!俺、真剣に訊いてるんです。だって、さっきの貴方はまるで…」
「まるで…?」

 とても淫らで、でも凄く綺麗だった、けれど俺が感じたのは、嬉しさよりも…

「誰か、違う知らない人みたい、でした…俺が抱いているのは、確かに大好きな宍戸さんの筈なのにっ!

 気にしないようにしたって、つい考えてしまうんですっ。決して縮まることのない年の差…貴方はどんどん綺麗になって、大人になって、俺だけ置いて…っ」
「…なんだよ、折角頑張ってみたっつーのに、全部裏目じゃねーか。激ダサだな、俺」
「そんなこと…」
「いんだよ、無理すんな。実を言うと、俺も結構無理してたんだ、その、さっきの

「え…?じゃあ、どうして…?」
「あ〜

 言い淀む彼に、尚も無言で促すと、

「…何日か前、忍足と話しててよ。そん時、お前が付けた跡が見えちまって」



〜数日前の会話〜
「なぁ、宍戸はソレ、よう付けられとるけど、自分は鳳に付けへんの?」
「はぁっ?!な、何で俺がんなことすんだよっ!
「は?!自分、キスマークさえ付けたらへんのっ?ちゅーことは、自分からシたいて誘うんはおろか、キスさえしてやっとらんのや?!」
「だったらなんなんだよっ!
「ほんまかいなι鳳も不憫やなぁ〜;俺はアイツ、そういうスキンシップ好みそうなタイプに思えるんやけど、ちゃうん?そんな相手に、そないにそっけないんはあかんと思うで〜?」
「うっ…」
「それに、宍戸はアイツんこと見とって、欲情したりはせぇへんの?男女に関わらず、好きな相手のカラダ見て、触れたい思うんは普通なんちゃうの?ま、俺には関係ないねんけどな」
「わかったよ」



「っつー、話になって…俺も思い当たる節が無くもねーし、ここはアイツに従ってみんのも悪かねーかと思ったんだよ」
「そうだったんすか…。良かった、あんまりいつもと様子が違うから、てっきり別れろとか言われんのかと」


 ははっと乾いた笑いを零す俺の頭を叩いた宍戸さんの表情は、凄く真剣で。

「っに言ってんだこのバカッ!そんなこと俺が言うわけねーだろ?!もぅちっと俺を信用しろっ!」
「そうですよね…すみません、宍戸さん」
「それに、無理したっつっても、お前を気持ち良くさせてやりてぇとは、マジに思ったし…
「え?」
「だからっ、半分くらいは自然にっつーか、ちゃんと、俺が『してやりたい』と思ったからしたんだってことだよっ!
「っ、それ、ホントっすか?俺、凄い嬉しいです!…ねぇ、大好き…宍戸さんが、大好き」

 そう言ってぎゅぅっと抱き締めた俺に、笑いながら「痛ぇよバーカ」と言った宍戸さんは、決して俺の腕を振りほどこうとはしなかった。


 貴方を好きだから、心の片隅には絶えず不安がある。
 けど、貴方を愛しているからこそ、貴方をもっと信じようと、信じられると思った。
 何より大切な、貴方だから…




 アイツは知らない。
 自分がどんな貌で俺を抱くのか。
 アイツは、俺だけが大人になって、知らない人の様だと言った。
 でもそれは、お前だって同じなんだ。

 いつもの幼さを残す笑顔とは反対の、凛々しく、艶のある大人の男の貌をして…
 俺の知らない貌をして…

 多少の怖さもあったのに、俺はその貌に魅入られた。
 だって、それは、これから先に出会うだろう、成長した長太郎の貌だったから。
 結局俺は、長太郎ならなんだって構わないんだと、改めてその時自覚した。

 このことを、アイツに言うつもりは無い。
 きっと長太郎も、俺が今日のような貌をする度、同じ思いになってくれると、信じているから。



〜終わり〜







 子供と大人の境目、微妙な時期にいる彼らの心境。
 [学校]という狭いくくりの中では、たった一つの歳の差も、
気になって、置いていかれるような気がして…
 そんな定番的なものと、相手の見せる、新たな一面に驚き、
惹かれるっていうのを組み合わせてみました。





モドル