だって、不安なんだ。
【平凡非凡】
久々のオフ、彼の部屋。
まったりしたお部屋デート…
とは反対の、重い空気。
「なぁ、えぇ加減その言い方やめや」
「だって、ホントのことじゃん」
「全然ちゃうやろ!確かに告白は自分からやった。せやけど何でソレが『付き合ってくれてる』になんねん!俺は好きでもない相手と付き合うたりせん」
「…」
「そんなん、わかっとんのやろ?何で言うんや」
何で?
だって、本当のことでしょ?
好きになったのも告白したのも私から。
玉砕覚悟だったのに、あっさりOKをもらえて、舞い上がったものの、後で冷静になって考えれば、タイミングが良かっただけだって思った。
だって私が、名門テニス部レギュラー、顔も頭もよくて、スポーツができて性格良しなんて才色兼備な彼に釣り合うとは思えない。
勉強もスポーツも、可もなく不可もなく程度。
特に美人でも可愛いわけでもない。
付き合って1ヶ月だけど、未だに侑士は私のどこが良くて付き合ってるのかわからない。
「なぁ…泣かんといてや」
「ご、ごめ…」
「謝らんでええ。謝るんやったら、ちゃんと、ワケ言いや」
次から次へと溢れる雫を親指で優しく拭われる。
諭すような、静かな声。
ねぇ、何でそんなに優しいの?
これ以上、好きになんてなりたくない。
私ばかりが貴方を好きで、片想いの時より、彼女になった今の方が、ずっと一方通行。
苦しいよ…
「言わな、わからへんよ?察することはできても、所詮想像や。大事なことは、ちゃんと言葉にせな」
「それは、侑士の方だよ…」
「何がや?ちゃんと、全部、思うてること全部言いや」
駄目、今は駄目なのに、
「侑士は私のことなんて、好きじゃないんでしょ?」
「…何やて?」
「ただ、断る理由もないから傍に置いてくれた?だって、私みたいな、他にいくらでもいるような普通の子と付き合う理由なんて他に無いでしょ?」
動き出した唇は止まらない。
こんなトゲのある言い方、したい訳じゃないのに、熱くなった感情が、要らないことまで口に出させるんだ。
「自分、それ、本気で言うてんの?」
「だ、だって…」
「だって?」
「今まで一度だって私のこと、友達に紹介してくれたことない!そんな、人に紹介も出来ないような女なら、付き合わなきゃ良かったじゃない!」
言って、しまった…
侑士の顔が、涙で滲む。
居たたまれなくなって、出ていこうとした私の手首を、強い力で掴まれた。
「は、放してよっ!」
「…すまん」
「やっぱり、そうなんだね…」
「ちゃうて!誤解や!」
振り払おうとした腕を引かれ、バランスを崩して彼の胸に倒れこむと、そのままキツく抱き締められる。
彼の意図がわからなくて、見上げた彼の表情は、何故か苦しそうで。
「そんな風に、思てたんやな…俺のエゴで、を不安にさせて、ごめん。ただ、そんな理由ちゃうねん!ちゃんと、聞いてくれるか?」
「…うん」
「…笑いなや?実は、な?を、誰にも見せたなかったんよ。下らん独占欲やて、自分でもわかっとる。けどな、が他の男と、親しげに話しとるだけやって、気になんねん。それだけ、お前が、好きなんや」
「う、ウソ…」
「嘘ちゃうよ。呆れたか?でもな、ほんまなんや」
そう言って、自嘲気味に笑う彼に、嘘じゃないとわかった。
なんだ、なんだ、そうだったんだ。
まさか真逆だったなんて!
「呆れない!ううん、嬉しい!侑士が私のこと、そんなに想ってくれてたなんて!なのに、私ってば…ごめん」
「ええて、言わん俺も悪かった」
「でも」
「ん?」
一番の疑問はそのままで、やっぱり聞かずにはいられない。
「私の何がよくて、付き合ってるの?」
「は?好きになるんに理由がいるんか?せやったら、は俺の何が好きなん?見た目か?天才て肩書きか?」
「違うよ!最初は、テニスしてる姿が、格好いいなって思ったけど、話してみたら凄く気さくで話しやすいとことか、意外と趣味が合うとことか…」
「うん、俺もや。と居るとな、居心地えぇんよ。で、ずっと一緒に居るうちに、笑った顔が可愛ぇとか、ちょっとした仕草も気になって、気づいたら好きやった」
そんなもんやろ、と笑う彼に、私もつられて笑う。
そうだね、恋愛って、案外そんなもん。
侑士が好きな、ロマンスみたいな恋も、女の子なら憧れるけど、実際は早々あるもんじゃない。
それに、こういう恋が私らしい気もするし。
「疑って、ごめんね?」
「えぇよ、もう。せやけど、これからはお互い、溜め込む前に、ちゃんと話そな?」
ぽんぽんと、大きな手に優しく頭を撫でられる。
あぁ、やっぱり…
「大好き」
「ん、俺もや」
まだ少し涙の滲む目尻に優しい口付けが降ってくる。
彼を好きになって、良かった。
彼に愛されて、良かった。
心から、そう思う。
どんな恋愛も平凡なんてないんだね。
だって、皆それぞれ恋をして、自分だけの愛の形を見付けるんだから。
だからこれが、私の、ううん、私達の、愛の在り方。
私達、だけの。
〜終わり〜

アップするのに約1年もかかってしまった;
実は、3〜4年前から書きかけていたモノ。
マガ発行者のお友達が就職決まったのでそのお祝いに完成させました。
ヤツラと付き合ったら、絶対一度は考えそうな悩み事ですよね。
2013.4.14
モドル