「大丈夫ですか?」
「大丈夫に、見えるか?」
「…すみません」

 ダルい。
 久々に動けないほどの風邪を引いて五日目。
 熱は、まぁ、割と下がってきたし、食欲もそれなりには戻ってきた。
 喋るのも辛いような日を過ぎ、やっと少し回復したと長太郎にメールすれば、余程心配してたんだろう、直ぐに見舞いに行きたいと返事が来た。
 移すかもしれないと不安はあったが、五日も会っていないんだ、会いたい気持ちの方が強かった。

「アイスとポカリ買ってきたんですけど、何かいります?」
「アイス」

 重い体をなんとか起こすと、すかさず長太郎が自分に寄りかからせるかたちで俺を支える。
 熱がある俺より長太郎の方が体温は低いはずなのに、背中や肩に触れる温もりが心地良かった。

「自分で食べられますか?」
「ん」

 本当は腕を上げるのも億劫なくらいだが、食べさせてもらうのに躊躇って返事をした。
 幾分かとけかけたアイスを、緩慢な動作で口へ運ぶ。
 大して力も入っていない手で持っていたスプーンだから当然、

「あ、宍戸さん、零れてますって!ちょっと…」

 ということになる。
 ああ、染みになっちゃう、なんてこぼしてる長太郎に、母親みてぇだな、とぼんやり考えていたら、何故か寝間着を脱がされていて。

「ちょっ、何すっ…んぅ!」

 何するんだと言い掛けた唇を塞がれた。
 その間も手は止めない長太郎。
 だが、ただでさえ鼻が詰まって苦しいのに、息も吐けないほどに深く接吻けられ、必死で藻掻く。

「っ…んっ、んー!」
「あ、すみません!」

 ぜぇぜぇと息をする俺に気が付いて、苦しかったですよね、すみませんと謝る長太郎に、さっき言い掛けた言葉を改めて言うと。

「あぁ、染みになるし、汗も大夫かいてるみたいだから、着替えさせようと思って」
「んなこと、自分で」
「出来ないでしょ?」

 笑顔なのに否と言わせないこの威圧感は何だ。
 渋々したがって、されるままにタオルでさっと拭ってもらい、新しい寝巻に袖を通す。
 だが、下着に手がかかり、流石に恥ずかしくて、

「おい、下はいいって!」
「下着の代えの場所も知ってるし、今まで何度も見てるんですから今更でしょ?」

 抗議をしてみたものの、取り合ってくれるはずもなく。
 そういう問題じゃねぇだろ、とは思うが、かなり汗をかいていただけに、正直助かると言えば助かるわけで。
 俺が黙ったのをいいことに、さっさと下着ごと脱がせると、タオルで拭い、新しい下着と寝巻を着せられた。
 拭かれている間は恥ずかしくて顔なんて見れなかったが、意外にもすんなり終わったことに驚いて、思わず長太郎を見ると…


「何です?驚いた顔して?」
「いや…」

 そりゃ、お前のことだから、絶対に何かしてくると思った、なんて言えずに視線を逸らせば、小さな苦笑いが聞こえた。

「俺だって、自制心くらいありますよ?まぁ、若干切れかかってますが」
「は?!」
「仕方ないですよ、自制心があったって男ですから。熱の所為か、シタ後みたいに潤んだ瞳とか肌が凄く色っぽくて…好きな人のこんな姿見て普通でいられるわけ無いじゃないですか」

 や、そんな、俺にどうしようもない事で怒られてもよ…
 無意識に毛布を引き上げた俺を見て、また苦笑いを洩らす長太郎。

「大丈夫ですよ。宍戸さんがつらいのわかってるし、襲ったりしませんから」
「お、おう、そっか」

 あぁ、ちゃんと俺のことを考えてくれてんだな、と、改めて思う。
 いつも俺の気持ちを、先回りして行動する。
 凄いことだし、ありがたいことだけど。
 自分を一番に考えたっていいんだ。
 たまにはお前が思うままに行動したっていいんだと、気付いて欲しかった。
 だから…

「うわっ?!」

 ダルい腕を持ち上げ、胸ぐらを掴んで引き寄せる。
 驚いて見開かれた瞳を上目に睨み、噛み付くように唇へ、自分のそれを重ねた。
 一向に閉じない、閉じるどころか更に丸くなる瞳に、恥ずかしさより、そこまで驚かせたことが少し嬉しくて。

「続きは、いつにする?」

 固まる長太郎に、ニヤリと笑う。

 理性と本能の狭間で揺れる、お前を誘惑しよう。
 お前が自分を抑えるしかできないなら…
 俺が抑えられなくしてやるよ。
 それでも我慢するなら、すればいい。

 我慢、できるのなら、な?



【君ヲ陥落サセルニハ】





 「俺が攻めに変えてやるよ!」的な?(笑)
定番の風邪ネタ書きたかったんですよね。
背景は風邪といえば、っていうのと、誘惑の果実ってことで。
マガの読者さんからこの続きを、とご要望があったので、今書いてます。

'10.12.14

モドル