君の事が
最近、気になるヤツがいる。
どういうふうに気になるのかと聞かれても、ただ気になるとしかいえないような、曖昧な気持ちではあるが…
けど、気付けばそいつを目で追う自分が、いる。
休み時間、取り巻く女たちの隙間から見えた、友達と話すアイツ。
その笑顔を見た瞬間、この気持ちの名前がわかった。
。
特に美人てワケでも、頭が良いってワケでもねぇ。
けど、その優しい笑顔に、声に、その存在に、引き付けられる、魅せられる…
周りで騒ぐ女どもの声も、教室の喧騒も、何もかもが気にならない程に、ただ、を見ていた。
そんな時、クラスの男子がに話し掛ける。
無償にイラついた…
そいつに話し掛けるな
俺以外の男に微笑うな
俺以外、見るな
醜い独占欲。
笑っちまうぜ、まだ自分のモノでもねぇってのに。
俺にも、こんな気持ちがあったんだな。
今まで、誰かに、何かに執着したことのない俺が、一人の女にこんなにも心を乱される。
その事実は、腹立たしくもあり、嬉しくもあった。
こんなに、誰かを好きだと思えることが。
急に席を立った俺に、周りの女達が不思議そうな声を上げる。
それに構う事無く、の傍まで行くと、
「話がある。昼休み、生徒会室に来い」
それだけ言うと、驚いた顔のと、騒めく教室内の一切を無視して席に戻る。
何事も無かったかのように、本を読み出す俺に、女達が色々言ってきたが、その全てを遮断し、意識は開いた本ではなく、昼休みどうするかだけを考えていた。
「あの、跡部君…?」
ノックの後に聞こえた、遠慮がちな声。
入れと言うと、そっと開いたドアから、待っていた相手が入ってくる。
居心地悪そうに小さくなっている姿に少し笑いながら、座れよと席を進めてやった。
怖ず怖ずと俺の正面に座ると、伺うように俺を見てくる。
「それで、私に話って…?」
「んな怯えるな。別にとって食いやしねーよ。それとな、ちょっと待ってろ」
怯えた小動物の様なに苦笑いしながら、俺はそう言って静かにドアへ向かった。
勢い良くドアを開けると、間抜け面が何人も。
そいつらを睨み付け、
「消えろ」
と一言言い、ドアを閉めて静かに鍵を掛けた。
ドアの向こうからはドタバタと騒がしく走り去る音。
人の気配が完全に無くなった頃、ドアから離れ、アイツの横に座る。
相変わらず縮こまったまま俺を見てくるを見つめ、真剣な表情を作る。
「いいか、一度しか言わねぇから、よく聞けよ?
…俺様の女になれ」
「…え、えぇ?!」
「何だ、嫌なのかよ?アーン?」
「ち、違っ、嬉しい!けど、何で私、なの…?」
顔を真っ赤にさせ、自分に自身が無いのか、段々と俯いていくに、愛しさから笑みが浮かぶ。
俯いた顎に手を掛け、目線を合わせて、その唇に軽くキスをした。
「?!」
「それはお前が“好き”だからだ。人を好きになるのに、理由なんて無い。ただ俺は、他の誰でもない、を好きなったってだけのハナシだ。で?お前はどうなんだよ?俺と付き合う気はあるのか?」
「わ、私でよければ…あ、でも…」
「でも、何だよ…?」
嬉しそうだった表情が曇る。
聞き返しはしたが、理由は大体察しがつく。
気持ちの上では問題ないのだから、他に思い当たるとすれば…
「心配すんな。は、いや、は責任持って俺が守ってるよ。俺は好きな女の一人も守れねー程能無しじゃないんでな。だから、何も心配すんな」
そう言ってやると、ありがとうと柔らかく笑う。
…俺はコイツの笑顔に弱いらしい。
柄にもなく、弛みそうになる表情を引き締める。
その時、微かに始業を知らせる鐘が聞こえる。
どうやら予令は聞き逃していたらしい。
「あ、跡部くん、急がないと授業が」
「景吾だ」
「え?」
「景吾って呼べよ」
始業合図を気にも掛けず、全く違うことを言ったせいか、それともその内容にか、少し焦り戸惑う様子。
だが俺は、今更授業なんかに出るつもりは全くない。
折角愛しいものを手にいれたんだ、直ぐになんて離せない。
立ち上がり、教室に戻ろうと俺に声を掛けるの手を、座ったまま少し強く引くと、バランスを崩した体はそのまま俺を跨ぐように膝に乗る。
が驚いている隙に、片腕は背中、片腕は腰を抱き、逃げられないように捕まえてしまう。
「あ、跡部くんっ!」
「違うだろ?」
頬に右手を添え、視線を合わせる。
ゆっくりと縮まっていく二人の距離。
唇が触れ合うまで後、数センチ。
「呼べよ」
「ぁ…景吾、くん」
「君はいらねー」
「け、いご」
「…好きだ」
話せば唇が触れそうな程の距離で囁いた俺の一言にまた頬を染め、目を閉じるが可愛くて。
柔らかな唇に触れた。
最初は触れ合うような軽いキス。
やがてついばむ様に何度も触れ合い、唇をペロリと舐めてやれば、驚いたように薄く開いた唇。
その隙間から舌を潜り込ませ、歯列をなぞり、上顎を舐める。
そして、逃げる舌を追い掛け絡ませれば、は戸惑いながらも応えてくる。
その反応すら愛しくて、頬に添えた手をずらし、後頭部を支えながら深く深く接吻けた。
静かな室内を、甘い吐息と微かな水音が満たす。
やがて苦しくなったのか、俺の胸を軽く叩くに、名残惜しくも唇を離すと、銀糸が二人の間を繋ぐ。
やがてプツリと切れると共に、我に返ったのか、これ以上ない程顔を赤くし、うつ向くを抱き締めた。
すると、微かに聞こえた小さな声。
「けい、ご。景吾、好き」
っ、危ねぇ、何だってそんなに可愛いんだお前は。
最初がこんなとこ(生徒会室)じゃあ可哀想かと、理性で抑えてるってのに、俺様のこの強い理性をも、お前にかかれば易々と崩されそうだ。
「あんま、煽るんじゃねーよ」
「え?」
何のことだか本当に分かっていないから、尚更タチが悪い。
「だから、ハジメテはこんなとこでシたかねぇだろ?押さえてんだからあんまり煽るなっつってんだよ。じゃなきゃ、このまま押し倒すぜ?」
「え、あ、えっと、ごめんなさい」
自分の行動を自覚したわけではないが、どうやら俺が言う意味はわかったらしい。
この場でやるつもりはねぇが、俺が口にした脅しにあまりにも慌てるから、笑っちまいそうなのを堪えて、の耳元に吹き込んだ。
「ハジメテは、俺様のベッドでたっぷりと愛してやるから期待しとけよ?」
最後に耳を舐めてやれば、声にならない悲鳴を上げ、真っ赤な顔で俺を睨む。
その潤んだ瞳が余計に俺を誘うと何故気付かない?
けれど、自分の欲望より、目の前の存在を大切にしたくて、また軽く口付け抱き締めた。
「もう何もしねぇから、暫くこのままでいろよ」
コクリと小さく頷いた、腕の中の温もりに、眠ってしまいそうな程の安心感を覚える。
放したくない…
この愛しい存在(もの)を、俺が守り、愛していくんだと、心の底からそう思った。
願わくば、がずっと俺の傍で、微笑みを湛えていられるように…
これは、マガ読者様にリクいただいたものですね。
タイトルは、大好きな清さんの曲から拝借。
2007,2,20
モドル