優しさの

「もうすぐ、今年も終わりですね…」
「あぁ」

 暗くなった帰り道を、二人並んで歩きながら、長太郎が呟いた言葉に寂しさを覚えた。
 今年…
 今年は本当に、色々な事があった。
 中でも大きな出来事は、俺の隣を歩くコイツが、“後輩”から“恋人”へと変わったこと。
 それが一番の、中学テニス部を引退するよりも大きな変化だった。
 そんな今年も、あと数日か…
 と考えていると、また隣から、今度は呟きではなく、俺に話し掛ける声がした。

「そんな淋しそうな顔、しないでください。俺が…傍にいますから」

 そう言った長太郎は、俺の手を取ると、少し強く握り、そのまま自分のポケットへと入れた。

「おい!誰かに見られたら…
「大丈夫ですよ、この道、人通りあまり無いですし。それより、手、冷たいっすね」
「冬だからな

 自分の温度を俺にわけ与えるかのように繋がれた手。
 いつもなら恥ずかしくて嫌がるのに、感傷に浸っていた所為もあるのか、気持ちも、温もりもダイレクトに伝える手を離すなんてできなかった俺を、長太郎も不思議に思ったんだろう。

「今日は、大人しいんですね。ねぇ、宍戸さん…」

 そう言いながら立ち止まると、繋いだ手は離さずに、空いている手で俺の頬、唇をなぞり、

「冷えた指先や、頬、唇、淋しがってる貴方の心を、俺が暖めてあげたい…今、直ぐに。ねぇ、ウチに来ませんか?」
「…あぁ

 真っすぐに見つめられ、囁かれた言葉には、否とは言わせないような何かがあった。
 いや、否と言わせないんじゃない、俺はもともと言う気なんて無かったんだ…
 言えるはずも無かった。
 だって俺は、むしろ望んでいたのだから…

「アッ、くぅっ…!」
「宍戸さっ、もっと力、抜いてっ!」
「やっ、ムリッ…あぁっ」

 長太郎の部屋に入るなり、深く深く接吻を交わし、互いの服を脱がせながらベッドへと沈んでいった。

 早急な繋がりは、僅かな痛みと、火傷しそうな熱と、多大な快楽を生み出して…

「ちょうた、ろっ…も、平気だから、うごっ、て…」
「はい。…宍戸さん、シーツじゃなくて、爪立てても良いからちゃんと俺に掴まっててくださいね?」

 そう言った長太郎は、シーツから俺の手を外すと、自分の首にまわさせて、ゆっくりと動きだした。

「んくっ、やあっ、アッ…」
「可愛い、宍戸さん。そのまま、ずっと俺を見て?…宍戸さん、愛しています」
「ふぁ、俺もぉっ、あぃ…ってる!」

 俺を見つめる甘い瞳…
 囁かれる愛の言葉…
 与えられる快感…

 その全てが俺を魅了する。
 理性も、羞恥も、簡単に薄れさせてしまうんだ。
 普段なら恥ずかしくて言えない言葉も、簡単に口にできる。
 長太郎の全てが、俺を溶かす…

「もっ、あ、あぁぁぁっ…!」
「くっ!」

 怠い体を引き寄せられ、シーツの中で抱き締められる。
 行為の余韻で、まだ意識もはっきりせずに、身じろぎ一つできない俺にアイツは…

「さっきまで冷たかった指先も、頬も唇も、ちゃんと暖かくなりましたね。むしろ、カラダは火照って熱いくらい、ですか?」

 くすりと小さく笑いながら、大して反応できない俺に話し掛ける長太郎。
 それでも俺は、ぼんやりと声の主に目を向けると、長太郎は視線を俺と絡ませて、

「もう、寒くなんてないでしょう?…寂しくなんて、ないでしょう?」

 と、僅かに微笑みながら囁き、腕の中へ閉じ込めるように俺を抱き締めた。

 なんでコイツはこんなにも、俺のことが解るのだろう?
 何故いつも、俺が欲しいものをくれるのだろう?
 こんなに、愛してくれるのだろう?
 俺は、ちゃんとコイツに、思いを返せているんだろうか?
 これだけの思いに、ちゃんと応えられているのだろうか…?

「長太郎…いつも、ありがとな。俺も、長太郎のこと、ちゃんと、愛してる、から
「えっ?宍戸さん?!」

 顔は見えないけど、きっと驚いているだろう声が頭上から聞こえた。
 こんな言葉を、顔を見ずに言うなんて、卑怯だとは思ったけど、今の俺にはこれが精一杯で。
 それすらも解ってくれたのか、長太郎は

「俺も、宍戸さんを愛してます」

 と、微かに微笑む気配をさせながら、静かにそう言ってくれた。

 そんな長太郎に甘えてしまっているのは解っているし、これが原因で、長太郎を不安にさせたこともある。
 反省してるはずなのに、なかなか行動に表せない俺を、コイツはいつもこうして笑って許すんだ…

 だから、今日は、一年の終わりくらいは、そんな自分にけじめを付けたくて、今の俺の精一杯のことをした。
 顔を見ずに、聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った、感謝と愛の言葉は、素直に見せられない、お前への気持ちのほんの一部。

 いつかちゃんと、その瞳を見つめて「愛してる」と言うから、それまでもう少しだけ、お前の優しさに甘えてもいいだろうか…?
 待っていて欲しいんだ、その時を。

「なぁ、いつか、ちゃんと、言うから…
「はい、焦らなくていいですから…俺は、待ちますから」

 お前がいつも隣にいてくれるなら、きっとそんなに時間は要らないんだ。
 俺だって、そんなに気が長いほうじゃない。

 何より、お前を好きなこの気持ちは、もう溢れだす寸前なんだから…



終わり








 
ある方にお礼として書いたものです。
 意識しては無かったんですが、『Love Letter』の別Verの様に;
 まぁ、ほら、寒いときは人肌恋しくなるって言うし、ね?(何)





モドル