Kiss me.
アイツと付き合い出して二ヶ月と少し。
未だ、キスもしていなければ、手すら繋いでいない。
何故かなんて、俺が訊きたいくらいだ。
変わったことといえば、携帯の着信履歴に「忍足侑士」の名が増えたことくらい、か。
…ただ、理由が全くわからないわけじゃない。
一つは、俺自身にある。
俺は今までそれなりに女と付き合って、やることもやってきた。
が、こんなに真剣に人を好きになったのは、今回が始めてで、口になんてできないが、正直戸惑うし、どうしたらいいのか 解らないでいる。
それに、俺は知っている。
忍足が、今まで付き合ってきた女に、二週間以上手を出さないでいたことはない、と。
けど、アイツは俺に触れようとはしてこない。
多分、触れ合えばもう戻れないから。
男同士なんて後ろめたいような関係を続けたくないのなら、何もないうちに終わってしまった方が良いに決まってる。
アイツは俺のことを本気で愛してるわけじゃないのか?
そもそも、最近は目が合うだけで、はっと驚いたように反らされる。
これは、完璧に嫌われたってことじゃねーのか?
けど、夜になれば普通に電話もしてくるし…
解らない……
「クソッ!もう知るか!」
考え疲れ、書いていた部誌を閉じて、ソファに仰向けに寝そべると、瞼を閉じた。
別に眠い訳じゃないが、何も考えず、ただ疲れた体と頭を休めたかった。
だがその時、
「跡部ー?もう終わった…って、なんや、寝てしもたんか?」
眠ってはいないが、多少のイラつきと、面倒くさいのも手伝って、寝たふりを決め込んだ。
そんな俺に、忍足が歩み寄ってくるのが気配でわかる。
「はぁ…またこない無防備に…けど、疲れてるんやろな」
何か一人でぶつぶつ言っていたのが、急に静かになった。
そして、近付く気配に何かと思い、気付かれないよう薄目を開けると、目の前には忍足のアップ。
驚くが、平静を保ち、寝たふりを続ける。
そうすれば、多分忍足はこのままキスをしてくれる。
多分、これはチャンスなんだ…
そう思っていると、
「っ、やっぱりあかん!こんなん、ダメや…」
ばっと離れる気配と、さっきよりは大きい独り言。
今度は俺のにもハッキリ聴こえた。
「ダメって…何が?やっぱり、俺じゃ駄目だって再確認かよ!」
「え、け、景吾、起きとったんか?!」
「いいから答えろ!」
寝てると思っていた俺にいきなり怒鳴りつけられ、驚いた様子の忍足に、尚も続ける。
この際だ、思ってること全てぶつけてしまえ。
このまま我慢したって、終わりが来るのは、時間の問題なんだ。
だったら、俺からこの関係を壊してしまえ。
せめて、優しいこの男が、俺を切り捨てることに、胸を痛めないように…
「お前は、俺のことなんて、本気で愛してはいないんだろ…?触れることもできず、避けるくらいに嫌なんだったら、さっさと別れたらいいじゃねぇか!」
「ちょ、ちょい待ちぃや、自分、何言うて…」
「いいぜ、お前が出来ねぇなら、俺様がやってやる!今ここで、この関係は終りだ!全て無かったことにしてやるから喜べよ!」
相手の言葉も遮り、一息に捲し立てると、静かな低い声で、
「…それ、本気なん?本気で、言うてるんか?」
怒りを秘めたその声に、僅かに怯んでしまう。
だが、俺が指摘したことの何が間違っている?
図星故の怒りではないのか?
「確かに、目ぇ反らしたし、さっきも触れかけて止めた、それは認めるわ」
「やっぱり…」
「けどな、それはお前をホンマに好きやからや!大切過ぎて、傷付けたないからや」
「んなの、俺だってお前を好きなんだから、傷付くわけねーだろ?!」
「え…?」
俺の答えに驚き、目を見開く忍足。
一体何だっていうんだ!
俺の気持を信じてなかったのか?!
その、さも、意外だ、と言いたげな反応に苛ついて、「何だよ?!」と怒鳴れば、予想外な答えが返ってきた。
「何って、自分気付いてへんの…?景吾が、俺のこと『好き』やて言うたん、今が初めてやで?」
「は?んなわけ…」
「ほんまやって。告白も俺が言うたんにOK出しただけやったし、いつも俺が言うた時に、頷くか『俺も』としか言われてへんよ」
そういえば…
この二ヶ月と少しを思い返して、確かに、自分から言ったことは無かった、ような…?;
「せやから俺も迷ったんや。景吾に触れたい、せやけど、景吾は本気やなかったら、触れてしまえばお互いに傷付けることになってまうから…」
「わ、悪ぃ…」
「悪い、やないわ!こっちは、無防備に寝顔や着替えみせられて、押さえるの必死やったんやで?」
だから、部活の着替えは、俺と時間をずらしていたし、さっきもキスしかけて止めたのかと納得した。
が、一つわからない。
「なぁ、だったら、何で最近目が合うと直ぐに反らすんだよ?」
「あ〜、あれか?あれは、やな…」
言いにくそうな様子に、また、さっきまでの不安が湧いてくる。
俺の表情からその気持ちを読んだのか、諦めたように口を開く忍足。
「気まずかった、ちゅうか、うしろめたかったんよ。最近、気付くと景吾の唇に、目がいっとんねん。触れたくて、触れられないその体を、唇を、気付けば目で追ってたんや。せやから、その時に目が合うと、なんや気まずいっちゅうか…」
「バカ」
「バカて、そない言わんでも…?!」
ぶつかるように、自分より少し高い位置にある唇に、自分のそれを合わせた。
目くらい閉じろよ、ムードねぇな…と言いたかったが、見開かれた後、優しく細められたのに、悪い気分はしなかった。
「俺だって、お前を、侑士を好きなんだから、触れたいと、触れられたいと思う。変な遠慮なんて、するな」
「ん、そやな。今回、改めてよぅわかったわ。景吾が素直やないことも、俺のこと、こんなに好きやってことも」
「言ってろバーカ!」
改めて言われ、照れて顔を反らすと、耳元で、
「なぁ、もっかいキスしてえぇ…?」
なんて聞いてくるから、余計顔が見られない。
「一々聞くな!」
「ん。ほな…」
そう言うと、唇を合わせられ二度、三度と、啄む様に何度も触れてくる。
すれ違いの末にやっと触れ合えたキスは、擽ったいような、少し恥ずかしいような気がしたが、同時に大きな幸せを感じた。
初めてのキスは、甘く、忍足の味がした。
終わり
やっとアップできる;
マガで先行配信したのはもっと前なんですけどね(苦笑)
にしても、何か、ラストがエロいな・・・(笑)
2007.3.23
モドル