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「怒られるよ」

 校舎裏で蹲るふわふわの金色頭に後ろから声をかけた。

「大丈夫だよ、跡部、知ってるから。ね、シロ〜?」

 シロと呼ばれた猫は、機嫌良さげににゃあんと鳴いた。
 どうりで、ジローを探しに行くと言ったら、校舎裏を見て来いと言われたわけだ。

「紹介するね。俺の友達。シロって言うんだ」
「野良だよね?…餌、あげてるの?」
「あげてないよ。ただの遊び相手」

 しゃがんでよろしくねと言うと、シロは愛想よく足に擦り寄ってきた。

「跡部、怒こらなかったんだ」
「うん。ネーミングセンスないって言われたけど」
「白いからシロじゃ、ねぇ…」
「だってシロって呼んだら返事したんだからしょうがないCー」

 ねーシロ?とジローが言うと返事のように一声鳴いたシロは、この名前に満足のようだ。
 それにまた、笑うジロー。

「跡部もさ、猫、飼ってるからね。…責任持って飼えないのなら、中途半端なことはするなって、言ってた」
「…」
「でもさ、校内で飼うなとか、餌付けするなって、頭ごなしに怒らなかったんだ」
「跡部らしいね」

 飼えないのなら、餌はやるな、自分で生きていく力と意志を奪うなって?
 ただ、遊びの相手くらいなら、見てみぬフリはしてやるって?

 厳しいけど優しい。
 ちゃんと本質を見て、気持ちを汲んでくれる。
 それがうちの、氷帝の、生徒会長で、テニス部の部長。
 人の上に、立てる人。

「跡部ってさー」
「「優しいよね」」

 重なる声に、顔を見合わせ、笑った。

「…猫ってEーよね、自由気ままで」
「何言ってんの、ジローもそうでしょ」
「えー、そんなことないCー」

 どこがとこづくと、イテテと大して痛くもなさそうな声。

「キミには犬みたいに従順でしょ?」

 そう言って笑うジローに、負けないくらいにっこり笑って言い放つ。

「それじゃ、さっさと部活行くよ!」
「えー」
「えーじゃないの。優しい部長さんがお待ちかねです」

 誰が誰に従順だって?
 思わず聞き返したくなる。
 ぷうっとむくれた駄犬をどう扱おう。

 仕方ない。

「言うこときくなら、ご褒美あげる」
「まじまじ?!行く、部活行く!またねシロ!」

 現金だなぁと苦笑い。
 こういうところのほうが余程犬っぽいのにと内心で呟いた。

「で、ご褒美何くれんの?」
「えーと…」

 並んで歩きながらふと聞かれ、考えてなかった私はどう誤魔化そうか頭をフル回転させる。
 考えてなかったんでしょー?とニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる慈朗。

「そ、そんなことないよ!あ、ほら、ムースポッキーとか!」
「えー」

 えーじゃないだろ、えーじゃ!
 そもそも部員が部活に参加するのにご褒美がいるってどういうことだ。
 そう突っ込みたくなるが、モノで釣ったのは私なわけで。
 どうしてくれようと考えていると。

「イタッ!」
「ありゃ、失敗〜」

 勢い余って歯がカチッと当たった。
 唇、切れてないかな?
 って、そうじゃなくて!

「ちょ、急に何すんの!」

 歩きながら何の前触れもなく仕掛けられるキスの成功率はどのくらいだろう。
 見事確率の高い失敗例になったわけだが、仕掛けた本人はケロッとしたもので。

「ご褒美考えて無かったんでしょ?だから、俺が欲しいもの貰ったんだCー」
「…せめて、立ち止まってからにしてください」
「えへへ?」

 いや、えへへじゃないだろ!
 ホント痛いんだから!
 とは思うものの、今にスキップでもし出すかと思うほどの上機嫌の慈朗に、まぁいいかと思ってしまう私は甘い。
 うん、私は彼氏に甘い。
 自覚はある。
 けど、私だけじゃなく慈朗の周りは皆が甘いんだ。
 それも、クラスメイトも、宍戸や跡部だって、慈朗には甘いんだ。

「慈朗はさ、愛されてるよね」
「へ?誰に?」
「皆に」

 そう言うと、少し不思議そうな顔をしてから、とびきりの笑顔を浮かべて君は言った。

だって愛されてるでしょ?俺に」
「…そりゃどうも」

 素直にありがとうと言うべきだったのはわかってるけど。
 そんな笑顔で急に言うなんて反則だ。
 は?なんて聞き返してくる辺り、天然キャラと見せかけ意地悪だと思う。
 精一杯の抵抗に、少し前を歩いてた慈朗の背中に抱きついて、肩に顔を埋める。

「ダイスキ」

 小さく呟いた私の頭をぽふぽふ撫でる手が気持ち良い。
 だからもう少しだけ、このままでいようよ。
 熱く火照った頬が、もとに戻るまで。



おわり




ただ、猫と戯れるほのぼのしたジロが書きたかったんですが…
跡部夢か?みたいな展開に;
違います!皆跡部を慕ってるってだけで、これはジロ夢です!(言い張る)

2010.4.7


モドル