静かな夜に
隣から聞こえる小さな寝息を、とても愛しいと思う…。
こんなにも穏やかな気持ちが自分にあったことを、と付き合いだしてから知った。
お前は知らない…
俺がお前に、沢山のモノを貰い、気付かされてきたことを。
『淋しそうな目をしてるんだね』
初めて会った時にお前が俺に言った言葉。
あの時は、何を言ってやがるこの女はと思ったが…
お前はたぶん気付いていたんだろう。
俺さえも気付かなかった、俺自身の孤独に。
頼れるものは、信ずるべきは己だけ。
何者にも気を許すことはなく、ただ全てに於いて完璧であることを自分に課していた。
どこかで虚しさを感じながら、それが正しいのだと、自分は間違ってなどいないと思い込もうとしていた俺に、お前はそう言ったんだ。
お前は俺に気付かせてくれた。
誰かを信じること、頼ることは弱さではないのだと。
孤独を感じるなんて馬鹿らしいくらい沢山のものにかこまれていたことに。
媚びるでも、恐れるでもなく、初めから本当の俺と向き合い、俺の目を開かせてくれたお前に、惚れないわけはないだろう?
この溢れくる愛しさを、どう表せばいいかもわからず戸惑う俺に、きっとお前は気付いていない。
惚れた弱みとはよく言うが、お前の為なら何だってしてやりたいと思う、そんな自分に驚いた。
俺は、どれだけに夢中なんだか…
「ん…?けぇ、ご…?」
「まだ夜中だ、起きなくていい。抱いててやるからまだ寝てな」
半分眠ったままのお前の耳元で囁くと、擽ったそうに身じろぎを一つ。
やがて俺の胸元へ擦り寄ると、
「一緒に、ねょぉ…」
最後は睡魔に負けたのか、フェードアウトしたが、ギリギリで聞こえた声に、笑みが浮かぶ。
計算ナシでこの可愛さはどうなんだ?
…もぅ、なんだっていいか。
俺はのことが好きで、そのが傍にいる。
それだけでいいんだ。
それが全てなんだ。
だからもういい、ややこしく考えることなど何もない。
今はただ、腕のなかの愛しい存在に誘われるまま、眠りの中へ落ちていけ。
「愛してるぜ」
そう囁いて、唇にそっとキスを落とし、またを抱き締めてシーツに沈む。
微睡む意識の中、小さく聞こえた「愛してるよ」の声は夢か現つか、そのどちらにせよ、俺を幸せにするには十分で。
小さく笑みを零すと、ゆっくりと額に接吻け、俺は優しい眠りの海へと沈んでいった。
月も星も、木々すら眠った静かな夜に、秘めたる想い、そっと明かそう。
この純粋で、深い愛の告白を、キミの寝顔とひきかえに。
褪せることなきこの想い、眠れる姫に捧げよう…
終わり

モドル