【新春】
初詣の帰り、皆でわいわいと騒ぎながら参道を歩く。
「平(たいら)って!俺初めて見たCー!」
「うっせーな!どーせ俺は平凡だよ!」
「そんなことないっスよ、宍戸さん」
「それよか、大凶引くなんて、さすがじゃん侑士!」
「うっさいわボケ!」
ゲラゲラと笑いながら、さっき引いたおみくじの結果を笑いあう。
私は、中吉だったかな。
跡部はまあ予想どおり大吉。
大体は皆吉の部類だったんだけど、一番枚数が少ない大凶を引き当てた忍足は、ある意味凄いと思う。
…私は引きたくないけど。
それに、宍戸は平だって。
私もこんな結果初めて見たな。
後ろの方で笑って見ていたら、ふいに腕を引かれた。
「あまり離れると、この人込みじゃ、はぐれるぞ」
「うん、ありがと」
「なぁ、そろそろ屋台のうなってくるし、ここらで何か買うて食べへん?」
「さんせー!俺もうすっげー腹減ったCー!」
「あ、じゃあアレ!私じゃがバター食べたい!」
「やっぱ焼きそばとか定番じゃね?」
うん。
やっぱり、いいな。
一緒にいるだけで、何でも楽しくなっちゃう。
このメンバーでバカやれるのも、後少し。
春から私達はまた一年生になり、長太郎達は三年になる。
皆、口には出さなくても、きっと同じこと思ってるってわかるんだ。
だって、今日は皆いる。
いつもは誘ったってなかなか来ない日吉も、人混み嫌いの跡部や忍足も。
この時間が貴重な時間なんだって、感じてるんだ。
それが何だか嬉しくて、切なくて。
「何笑ってんだよ?」
「ううん、何でもない!早く買って食べよう!」
「何人かに別れて並んだほうが効率いいでしょうね」
「ほな、買ったらあっこのベンチ集合やな」
忍足の言葉で2人ずつに別れ、めぼしい屋台に並ぶ。
「…何か、あった?」
「え、何で?」
「さっきから、たまに、何とも言えない顔してたから」
一緒に並ぶ滝に、苦笑い気味にそうきかれ少し戸惑う。
「あ〜…ほら、このメンツでバカできるのも、あとちょっとだなって」
「…そうだね。けど、これが最後にはならないよ」
「何でそう言えるの?」
最後だと思ったから、皆集まったんじゃないの?
「本当はもわかってるだろ?」と優しく笑う滝は、私の言外の思いまでわかってるみたいだ。
程なく買い終えて、皆の元へ戻る。
「達遅ぇよ!」
「ごめんごめん!」
「これで全員戻ったか」
「んじゃ、早く食べようぜ!」
「いっただっきまーす!」
跡部が人数を確認するや否や、ジローの言葉で数人が勢い良く食べ始める。
半分食べて交換したり、最後の一個をとりあってたり。
呆れて見てる跡部に、忍足と共謀して無理やりたこ焼きをアーン?…いや、あーんして怒られてみたり。
「…来年もまた、来たいですね」
ぽつりと呟いた長太郎を見上げる。
同じこと、考えてたんだ。
すると横から、よく通る声がした。
「来ればいいじゃねぇか。何度でも。今生の別れじゃあるまいし」
「…うん。来年も、また、皆で来よう。ね、樺地?」
「ウス」
跡部の言葉に頷く。
そうだね、その通り。
確かにこの瞬間は今だけの貴重なものだけど、跡部の言うとおりだ。
これで終わりじゃない。
私達は成長するし、少しずつ、色々なものも変化する。
だけど、変わらない思いや、続く関係だってある。
そうしたいならそうすればいい。
滝の言葉の意味、ちゃんとわかった。
「おじいちゃんおばあちゃんになっても、皆で集まって騒ごうね!」
「ゲー、どこまで一緒なんだよ」
そう言って笑う皆の目が優しかったのは、きっと気のせいじゃない。
年始めの、最初の良い事。
終わり

正月にマガで配信したもの。
若いうちしか出来ない大切な思い出ってありますよね。
大人になっても関係は続けられるけど、同じ話題で同じ会話なんてできない。
それは良くもあり、悪くもあり…っていうのを書けたらなーと。
2010.1.30
モドル