Sweets


 家庭科部の部室、まぁ、つまりは家庭科室にだが、バターのいい香が漂い始める。

「皆、もう焼けたー?」
「あと3分です!」
「了解!」

 オーブンを覗き、マフィンの焼け加減を見る。
 ウチのテーブルはもう完成かな。
 後輩が鉄板を取出し、私と友達で大きな籠にマフィンを入れていく。
 そろそろ紅茶を準備しようとしたところで、

ちゃーん!今日は何作ってるの?俺にもちょーだい?」
「また来たの?部活は?」
「えへへ〜、抜けてきちゃった」

 今日もまた、窓から絶妙のタイミングで呼ばれた。
 部員ももう完全に慣れて、今焼けたんですよ〜なんていらん報告してるし。

「いい加減にしなよー?私が跡部くんに怒られたし」
「えー、何で?」
「猫の餌付けするなって」

 言われた瞬間は理解できなかったけど、今やっとわかった。
 確かに毎回、決まった時間にねだりに来る、でっかい猫がここにいる。
 とは言っても、いつも窓の鍵を外しておく私も私だけど。

「えー!猫じゃないCー!」
「はいはい、コレ食べたら帰ってね」

 仕方なく、私の分のマフィンを渡す。

「いっただっきまーす!」
「あ…」
「美味Cー!って、うわっ?!」
「いつもご苦労様。樺地くんも食べる?」

 気配もなく現れた樺地くんにもマフィンを差し出せば、横から手が伸びて、さっと攫われた。

「ちょ、ジロー!」
「ダメ!」
「ジローはさっき食べたでしょ?」
「そーじゃなくて!が作ったお菓子は俺が全部食べるの!他の男にあげないで!」

 珍しく大きな声を出したジローに驚く。
 でも、そんなこと言ったって…

「この籠の中の、どれが私の作ったのかわかるの?」
「…コレとコレ、あとコレでしょ?」
「…当たり」

 じーっと籠に盛られたマフィンをみつめると、見事に私が作った物だけを、指し示す。
 形に特徴があるわけでもないし、カップの模様だって一緒。
 作った私以外はわからないくらいのものなのに。

「何でわかったの?!」
「う〜ん、なんとなく?」

 にっと笑ってそう言われると、もう何も言えない。
 「部長、愛されちゃってますね〜」なんて後輩が言うから、とりあえず軽く頭を叩いておいた。

「イッター!暴力反対ですよー。あ、樺地くん、私のでよかったらどうぞ」
「ウス」

 私のではないマフィンを後輩が樺地くんに渡す。
 それにはもう見向きもせず、

「当てたんだからご褒美頂戴?」

 なんて言うから、もう一つマフィンを渡そうとすると…

「それも嬉しいけど、違うの!」
「キャッ?!」

 そのまま差し出した腕をぐいっと引かれ、一気に距離が近づくと、私の耳元で囁いた。

「キミをちょーだい?」
「えっ?!」
「俺と付き合って、ってこと」

 驚く私からマフィンを取ると、噛りながら去っていく。
 呆然と見送る私に、くるりと振り返り「考えといてねー!」なんて手を振って。

「ね、部長、今ジロー先輩に何て言われたん…うわっ、真っ赤!」
「うぅ…何でもない!」

 そりゃあんな、突然の告白されたら赤くもなるって!
 火照りが治まらないうちに後輩に顔を覗き込まれてしまったから大変だ。
 その後は友達や後輩に散々からかわれたけど、恥ずかしいだけじゃなくて、嬉しかった。

 からかわれた事が?
 違う。

 好きな人に告白された事が。
 彼にとっての特別になれた事が。

 次の月曜日、2月14日に、返事をしよう。
 大好きだって気持ちをこめた、特別なプレゼントとともに。




終わり






 バレンタインの逆メを想定して書いたので、こういう結末。
 久々に学園物正統派を書いた気がします(笑)

2011.3.6


モドル