Say you love me.
「げっ、もうこんな時間かよ」
遅れる旨をメールで相手に送信し、店を出て急いで歩く。
向かうは後輩…
いや、恋人、の家。
今日は、長太郎の家で誕生日を二人きりで祝うことになっている。
長太郎の両親は仕事、姉はバレンタインだから、彼氏の家に泊まるらしいと長太郎が言っていた。
まぁ、中学生にもなった男の誕生日なんてそんなものだろう。
けど、それが俺達にとっては好都合だった。
料理までは流石に俺も用意出来なくて、それは長太郎の親がケータリングを手配してくれたので、お任せした。
だから俺は、長太郎へのプレゼントを買って、長太郎の家へ向かう。
ハズだったのだが…
色々思い出しながら歩いていると、何時の間にか長太郎の家の前。
インターホンを押すと、直ぐに明るい声と笑顔が俺を出迎えた。
「いらっしゃい宍戸さん!寒かったでしょ?さぁ、早く上がって下さい」
「あ、あぁ。おじゃまします」
「俺以外居ませんから、どうぞ遠慮なく」
そう言って、俺の荷物を持つと、リビングへ案内する長太郎。
後に続いてリビングへ入ると、続くダイニングのテーブルに、所狭しと並べられたご馳走に唖然とする。
「はは、驚きますよね…ウチの親、どうも頼み過ぎちゃったみたいで」
「あ、あぁ、やっぱり、俺達二人分には多すぎるよな?」
苦笑いしながら言う長太郎に答え、とりあえず食べることにした俺達は、向かい合ってテーブルについた。
「じゃあ、食べましょうか?いただきま…」
「オイ!ちょっと待て!グラス持て、グラス!」
「え?は、はい」
何普通に食べ始めようとしてんだコイツは…
何のためのご馳走だっつーんだよ。
慌ててストップを掛け、グラスを持たせると、俺が声を掛けることにした。
「長太郎」
「は、はい」
「…14歳の誕生日、おめでとう」
「っ…あ、ありがとうございます!」
俺がそう言って、長太郎の持つグラスに自分のグラスをカチンとぶつけると、長太郎は一瞬驚き、満面の笑みでグラスを掲げて口をつけた。
その後は、部活や学校、テニス、ゲーム、色々な話をしながら、食事を進めていった。
一時間と少し経ち、そろそろ食事も終わろうかという頃には、あれだけ並んでいた料理が残りわずかで、食べ盛りの男二人もいれば、こんなもんかと思っていると、「そろそろ片付けましょうか?」と、またもや自分が率先して動こうとする長太郎をリビングに追いやり、食器等を片付ける。
さっさと終わらせ、俺もリビングに行けば、すまなそうな顔をした長太郎がソファに座っていた。
「すみません、宍戸さんはお客様なのに、片付けさせちゃって…」
「いいんだよ。今日はお前の誕生日なんだから、お前は俺にしっかり祝われとけ」
俺がそう言って笑うと、長太郎も、それでもまだ控え目に「そうですね」と笑った。
俺がソファにかけると、長太郎は「あ」と、何か思い出したようで、キッチンの方へ消えた。
だが直ぐに、皿やフォークにナイフ、そしてホールケーキをトレイに乗せて来る。
「そーいや、誕生日なのにケーキまだだったな」
「あはは、俺も忘れてました」
「にしても、スゲーな、このケーキ」
「母が買ってきてくれたんですけど、このお店のケーキ、甘過ぎなくて美味しいらしいんですよ。宍戸さんも、これなら食べられますか?」
「バーカ、今日の主役はお前だろ?俺のことは気にしなくていいんだよ!」
俺が笑うと、「でも、どうせなら宍戸さんにも美味しく食べてもらいたかったから…」なんてシュンとして言いやがるから、俺の方が困っちまう。
それに、あんまり甘いものが得意でない俺の好みをちゃんと気にしてくれていたことも、正直、嬉しかった。
「分かったよ。んじゃ、俺も少しもらうわ。あ、俺が取るから、皿とか貸せよ」
そう言って、ナイフなどを借りて、食べる分だけ皿に取り、残りはしまってもらう。
そのケーキはホントに美味くて、自然に二人とも笑みが浮かんだ。
すると、また突然声を上げた長太郎に少し驚く。
その内容に、この後、もっと驚くことになるのだが…
「あ!そうだ!」
「な、何だよ?急に大声出すなよな?驚くだろーが」
「はは、すいません、つい。えーと、それでですね、宍戸さんにお願いしたいことがあるんですけど…」
「あ?お、おう。いいけど、何だよ?お願いって」
「…今『いい』って言ったの、忘れないでくださいね?」
長太郎の追加の台詞に、何か良くないお願いだというのだけはわかった。
「ちょ、おい!…変なことなら、しねぇからな?」
「別に、変なことなんかじありませんよ。ただ、宍戸さんにケーキを食べさせてもらいたいなぁって」
「ならいいけど…って、はぁっ?!」
「え、いいんですか?!わぁー、よかった〜!絶対嫌だって言われると思ったんですよね〜」
反応が遅れた俺の、後半の声は聞いてないらしい。
コイツの耳は、どれだけ本人に都合よく出来てるんだろうか。
「ね、いいですよね?」
「っ〜…わ、かった」
いや、ホントは全然了承なんかしたくねぇんだが、せざるをえないというか…
長太郎には言えないが、少し負い目があるのと、こんなに喜んだ顔を見せられたら、とても「嫌だ」なんて言えなかった。
あぁ、俺は何て、こんなにコイツに甘いんだろうかと思いながら、フォークに一口分のケーキを取り、長太郎の口元に運ぶ。
「ほら、口開けよ」
「はい」
パクッと差し出したケーキを食べ、満面の笑みで俺に「美味しい」と言う長太郎に、まぁ、こんな顔するんなら、多少恥ずかしくても構わないかと思ってしまった自分に苦笑いする。
そして、その後も何回かそれを繰り返し、ケーキも食べ終わって一息つく。
食欲も満たされ、寄り添ってソファーに座り、それなりにイイ雰囲気。
きっと、プレゼントを渡すなら今なんだろう。
だが、俺にとっては少し居心地が悪い。
素直に言って謝るべきか、黙って触れずにおくべきか…
やはり、このまま誤魔化すなんて性に合わない。
ちゃんと話して謝ろうと、口を開いた。
「あ〜、その、実は、さ…?お前に、謝んなきゃなんねー事があるんだけどよ…」
「ふふ、わかってますよ。プレゼント、用意して無いんでしょう?」
少し笑いながら、言いにくい事実をピタリと当てられ、驚く俺をよそに、長太郎は続けて話出す。
「宍戸さんて、嘘つけない人ですからね。こんな場面でさっきからそわそわしたその態度。大体察しはつきますよ」
「…怒って、ないのか?」
「え?いえ、別に。こう言ったら難ですけど、俺は宍戸さんが祝ってくれただけで嬉しいですから」
その言葉に、安心すると共に、悲しくなる。
プレゼントを用意できなかった俺が悪いのであって、長太郎に非は一つもないのに、まるで期待はしていなかったと言われたようで、悲しく、悔しくなってしまう。
自分勝手だとは思うが、止められなかった…
「わ、悪かったな!大したことしてやれなくてよ!どうせ俺は、気の利いたことなんて何もしてやれねーよ!」
「え、宍戸さん、そんなつもりで言ったんじゃ…」
「俺だってな、これでも一応考えたんだよ!お前は何やったら喜んでくれんのか、一番喜ぶものやりたくて…けど、わかんなくて、決めらんなくて…」
「宍戸さん!」
段々小さくなる俺の怒鳴り声を遮って、長太郎は俺を呼ぶと、抱き締めた。
「宍戸さん、聞いて!俺、俺は、そんなつもりで言ったんじゃないんです。ただ、本当に、宍戸さんがこうして祝ってくれることが嬉しくて、それだけで十分だと思ったんです」
「んなの、当たり前のことだろ!」
「最後まで聞いて!」
珍しく声を荒らげた長太郎にまた少し驚き、話を聞くことにする。
「宍戸さんは、さっき“当たり前だ”って言いましたけど、それは違います。俺達が出会って、男同士だったけれど、お互いに好きになって、恋人になって…それは凄い確率の上に成り立ってることなんですよ?俺は、貴方が俺を受け入れて、傍にいてくれる。それが、幸せなんです」
「それでも、俺は、普段とは違う、特別な日なんだってお前に感じて欲しかった…長太郎なら、俺が選んだものなら何だって喜んでくれるって知ってたけど、お前が俺にしてくれる様に、一番欲しいものをやりたかった。お前を喜ばせたかったんだ…」
「宍戸さん…」
長太郎は、そう言った俺を抱き締める腕の力を少し強め、
「宍戸さん、俺、嬉しいです。貴方がそんなにも俺のこと考えていてくれたなんて、凄く、幸せ」
「バカ、当たり前だ!俺だって、お前のことが、好きなんだから…」
「はは、そう、ですよね」
少し照れた様な声で言った。
抱き締められた俺に、その顔は見えなかったけれど、声の感じや気配から、照れながらも笑っているのがわかった。
「けどよ、マジに、プレゼント用意できなくてゴメン。お前は、俺の誕生日、ちゃんと用意してくれたのに…」
「あー、それなら、またお願いを叶えてくれませんか?さっきみたいなことじゃなくて、結構真面目なお願いなんですけど…」
抱き締めていた腕をとき、俺の顔を伺うように見ながら問う長太郎に、俺は一も二もなく頷いた。
プレゼントを用意できなかった罪悪感を消したい自分のエゴなのはわかっていたけど、少しでも、もっと長太郎に喜んで欲しかったから。
「えっと、お願いは、ですね、“愛してる”って言って欲しいんです。こんなこと、強要するようなことじゃないって分かってるし、宍戸さんは言葉より行動で表す人だから、普段言ってくれないのは、恥ずかしいだけなんだってわかってるけど、たまには、言って欲しいんです…」
「ダメですか…?」と、少し寂しそうに笑う長太郎に、申し訳ない気持ちで一杯になる。
確かに、“愛してる”なんて、面と向かって言うのは死ぬほど恥ずかしい。
けど、そんなことで、俺は、コイツを悩ませて、こんな顔をさせてしまっている。
「ごめん、長太郎」
「いいんですよ、予想はしてましたか…」
「そっちじゃねーよ!そうじゃなくて、今まで、俺が言わなかったことに悩んだり、寂しかったりしてたんだろ?そんな思いさせて、今まで気付かなくて、ごめん」
「え?…じゃあ」
「愛してるぜ、長太郎。誰よりも、お前を」
「宍戸さ…っ」
俺がそう言った瞬間、驚いたような顔をしたかと思うと、噛みつくようにキスをされた。
「ふぅ、ンッ…」
少し苦しくなって、長太郎の胸をトンと叩くと、名残惜しげに唇を舐められ、離れていった。
「お前、急に…」
「すみません、嬉しくてつい」
謝りながらも嬉しそうなその顔に、段々と恥ずかしさが増して来るが、決して嫌な気はしなかった。
今まで口には出さなかったけど、ちゃんと思っていた言葉だったから。
「なぁ、長太郎、これだけは勘違いすんなよ?」
「なんですか?」
「俺は、長太郎に頼まれたからじゃなくて、俺自身も、ちゃんとそう思ってるから、お前に“愛してる”って、言ったんだからな?」
「は、はいっ!」
満面の笑み勢い良く返事が返ってきたかと思うと、また抱き締められる。
「俺、こんなに幸せな誕生日って、初めてですよ」
「そりゃよかった。長太郎…」
「はい?」
「誕生日、おめでとう。これからも、お前を愛してるぜ」
「俺も、宍戸さん、貴方だけを、これからもずっと、愛していきますから」
折角の誕生日に一波乱。
何やってるんだと思いながらも、結局最後はいつものように、分かりあえて、長太郎にも喜んでもらえて…
こうして大切な一日が過ぎていく。
きっと来年のこの日は、笑いながら今日のことを話しているんだろう。
苦く甘い、思い出として…
遅くなってごめんよチョタ…(泣)
決して忘れてた訳ではないんだけど、ね?;
すんません;
2007,2,20
モドル