want to observe
今年の10月15日は特別だった。
…少なくとも、特別な日だと俺は思いたかった。
今迄部活の仲間として祝ってやったのとは違い、恋人という関係になって初めて迎えるアイツの誕生日だったから。
先の俺の誕生日には、忍足から、幸せをもらった。
だから、俺も同じようにかえしてやりたいと、そう思っていたのに…
「お客様のお掛けになった番号は、電波が…」
何度掛けても繋がらない携帯。
15日も残すところ後一時間程。
何処にいる?
何をしている?
何を考えている?
誰と…いる?
イライラする。
何なんだアイツは。
俺を好きだと、好きだから何でもしてやりたいのだといつも言うくせに、俺がお前の誕生日には、同じようにかえしてやると言ったとき、嬉しそうに微笑ったくせに。
本当なら、昨日からウチに泊まり、二人きりで今日を祝っている筈だった…
なのに、昨日から急に音信不通で、会いに来るわけでも、連絡をくれるわけでもない。
一体何のつもりだ?
それとも、大切な日を、誰にも邪魔されず、共に過ごしたい相手でもいるのだろうか?
俺、以外に…
段々と沈んでいく思考を、ノックの音が遮った。
自室のソファに座ったまま、顔だけをドアに向け答える。
「何だ?」
「坊ちゃま、忍足様から御電話が…」
言い終わらないうちにドアを開けた。
急いで廊下を歩き、受話器を取る。
「…何の用だ」
無意識に、不機嫌な声が出てしまった。
俺はコイツ一人にこんなにも心を乱される、其れ程に忍足が好きなのかと、自分に多少呆れた。
俺の不機嫌を察したのか、電話越しの声が、少し焦っているのがわかる。
「もしもし、景吾?こんな時間に、ちゅうか、連絡遅なってしもてごめんな?;」
俺が無言のまま聞いていると、余計に焦った感じの声が、早口に理由を述べだす。
「実は、昨日親父が倒れよって、病院に居ったから連絡できへんかったんよ」
「はっ?!大丈夫なのかよ?容態は…」
「あぁ、過労で倒れただけやから、明日には退院できるて。ただ、今日は色々慌ただしゅうて、連絡もできんし…約束、守れへんでごめんな?怒っとるやろ…?」
「怒ってねーよ。理由が理由だ、仕方ないことだろ」
怒ってないのは半分は本当で、半分は嘘だ。
今の理由なら、仕方ないと納得はできる。
だが、一度抱いたこの不安や苛立ちは簡単には消えなくて、吐き出せないまま胸に燻っている。
けれど、忍足を責めることもできない。
そんな複雑な心を忍足は感じたのだろうか、
「…無理せんでえぇよ。思てたこと、全部言うて?」
そう言って、俺からの言葉を待つ。
少し気が引けるが、ここで何も言わずに、嫌な雰囲気のまま会話を終えたくはなくて、話すことにした。
「もう、俺はいらないのかと、思った…約束したのに連絡もこねーし、何回掛けても繋がんねーし。…不安だった」
最後の言葉はとても小さくなった。
だが、多分電話越しの忍足にはちゃんと聞こえていたんだろう。
「堪忍な…不安にさせて、ほんまにすまんかった。せやけど、もう少し、俺の気持ちも信用してくれへんか?俺がどれだけ自分のこと愛しとるか、知らんとは言わせへんよ?」
「ん…わかってる」
そう、本当はちゃんと分かっていた。
けれど、『誕生日』という特別な日だからこそ、鳴らない携帯に、訪ねてこないことに、不安が膨らんだんだ…
「景吾、明日、学校終わってからでえぇんやけど、時間ある?二人きりで、今日の約束やり直ししてくれへんか…?」
「…明日じゃなくて、今からやり直せばいいだろ」
「そういうわけにいかんやろ;もうすぐ日付も変わる時間やで?明日は平日やし、その気持ちだけでえぇよ」
そう言って笑う気配がした。
「…なら、今年のお前の誕生日は16日だ。そのつもりで、たっぷり祝ってやるよ」
「ん、期待しとるわ。あ、せや、景吾、二人ん時は名前で呼ぶて約束、忘れてへんやろな?」
「忘れてねぇよ」
…ただ、照れくさいだけだ、と心の中で呟くと、電話口から「さよか」と嬉しげな声が聴こえた。
たったそれくらいのことで、そんなに喜べるものかと思うが、“それくらいのこと”を照れてなかなかできない俺が言えたことじゃねぇかと思い直す。
「…侑士、HAPPY
BIRTHDAY」
「ん、おおきに。…やっぱ、景吾に言われるんは違うな。今の一言がどれだけ嬉しかったんか、この気持ちが景吾に伝わればえぇのに」
「バーカ、わかってるに決まってんだろ?」
今日が終わるギリギリに、やっと伝えられた祝の言葉。
本当は直接、顔を見て言いたかった言葉。
喜ぶあいつが見たかったから…
だが、顔なんて見なくても、声のトーン、その息遣いから全てが分かる。
あぁ、こんなにも、俺はこいつが好きで、忍足は俺を好きなんだ、と。
もう直ぐ日付は変わってしまうが、この気持ちは変わらない。
大切なのは、何よりも忍足が生まれてきたことを祝う気持ちなのだと気づいたから。
そういえば、と、あることに気がついた。
「おい、何で携帯じゃなく、わざわざ家に掛けてきたんだ?」
「あ、はは…えーと、携帯な、親父の病室に忘れてもーた;」
「はぁ!?」
「気づいて取りに行ったんやけど、面会時間終わってたんよ;せやから、こんな時間に悪いとは思うたけど、今日のうちにどうしても景吾の声聞きとうて…呆れたか?」
その時の焦った様子が目に浮かび、思わず笑ってしまう。
それに、その気持ちが嬉しかった。
「呆れてねーよ。それに俺も、侑士を待ってたんだから、な///」
言った後で少し照れたが、電話越しに相手のほっとした様な、嬉しそうな「よかった」と笑う声に、自然と俺にも笑みが浮かんだ。
「また明日、な」
「あぁ、おやすみ、景吾」
名残惜しい気持ちを、表に出さずに声を出した。
切れた受話器をそっと置く。
部屋に戻ると、早々にベッドへ潜り込む。
早く夜が明けるように。
早く、アイツに会えるように…
忍足パパ、ごめんね;
会えないBDっていうのを書いてみたかったんですが、
会えない理由を何にするか相当悩みましたι
多少おかしなところがあるかと思いますが、
突っ込まないでやってくださいι
何はともあれ、忍足、おめでとう!
例え当日じゃなくても、
愛しの跡部が祝ってくれるならそれで構わないでしょう(笑)
むしろ、今年の君の誕生日は16日ってことで!(笑)
2006,10,15
モドル